You Haven't Done Nothing
恐ろしいタイトルで始まりました。
5月21日は、1962年、12歳のリトル・スティーヴィー・ワンダーが「フィンガーティップス」をライヴ録音した日ということで、「エド・サリバン・ショー」に出演した時の映像が流れました。
「エド・サリバン・ショー」は今話題のGyaoでも観られますし、今度DVDシリーズが発売されるとのことで。そんな映像が残っていたんですねえ。
「フィンガーティップス」は、ポップスヒットチャート史上、ナンバー1ヒットとしては最年少記録であると共に、ライヴ録音のシングルレコードとして最大のヒット曲という記録も持っています。二つとも40年以上破られていない。
克也さんも、その後のスティーヴィーの成長のことを「ちょっと力が入った」状態で熱弁されていらっしゃいました。
それから4年後の66年の”Uptight”の頃には声変わりも終わって、ほとんど今の声に近くなっていました。
克也さんもおっしゃっていたように、彼が偉かったのは、かなり早い段階でモータウン。レコードからセルフ・プロデュース権を獲得していたところ。
60年代のモータウンは、よく言えばいわゆるモータウン・サウンドとしてスタイルを確立しており、悪く言えば没個性状態。ベリー・ゴーディJrの徹底的な管理体制が築かれ、あたかもデトロイトの自動車産業の大量生産体制のように、音楽のスタイルを統一規格化していた。ヒット曲を量産したが、詩の内容はティーンエイジャーの日常や他愛のないラブソングが中心(マーサ&ヴァンデラスDancing in the Streetあたりは例外か?)、リズムもあの独特のやつが中心で、ブラック・バブルガム・ミュージックと呼んでもいいものだった。アーティストの個性を際立たせるものでは決してなく、よく言えばブランドのスタイルが確立したものであったが、どれも似たような感じであったこともまた事実。
そんな中、60年代に黒人が経験した公民権運動やベトナム反戦が音楽にも影響し始め、ニュー・ソウル・ムーブメントが巻き起こります。彼らの音楽にも社会的な主張が強くなってくる。モータウンにもノーマン・ホィットフィールドのようなソングライターが台頭し、エドウィン・スター”War” 「黒い戦争」テンプテーションズ”Ball of Confusion"なんていう骨太のヒット曲が出るようになる。
そんな中で、スティーヴィーもシンセサイザーに目覚め、克也さんの一押し、社会的な攻撃性と美しさの混じり合った名盤 Innervisionsを発表し、都市部の黒人の生活の悲惨さを歌った”Living for the City”「汚れた街」が大ヒットを記録する。その少し前に、先月書いた、マーヴィン・ゲイ”What’s Going on?”の発表があり、やはり社会性を帯びてきたマーヴィンの音楽と、それを気に入らなかったゴーディとの軋轢が始まります。
同じ時期、モータウンは音楽の変化以上の変化を経験する。モータウンとはmotor townつまり自動車産業の町デトロイトのことなのに、72年、本拠地をデトロイトからロサンゼルスに移してしまう。
アメリカの経済の中心が西海岸に移っていく現象を象徴するかのような出来事で、ビリー・ジョエルの、戦後の出来事をラップみたいにして並べた”We Didn’t Start the Fire”「ハートにファイア」の歌詞の中にCalifornia baseballと出てくる、1958年のブルックリン・ドジャーズが西海岸の会社に買収されてロサンゼルス・ドジャーズになってしまったことがニューヨークっ子にとって大ショックだったのと同じように、モータウンレコードの移転で、デトロイトは死んだ、と言われました。
また更に同じ時期、モータウンの古参だったフォートップス、グラディス・ナイト&ピップスなどが、管理体制に嫌気が差したのか、独自のスタイル追求のために次々とレコード会社を移籍する。
また、そのように変化していくモータウンに対して、本当のモータウン・サウンドを追求するべく、モータウンのソングライターチームだったHolland-Dodger-Hollandは、デトロイトに残り独立レーベル Invictus/Hot Waxを立ち上げる。
この70年代初頭、ジャクソン5は、4曲連続のナンバー1を放ち、モータウンレコードの新たな顔となります。ベストヒットUSAのタイムマシーンのコーナーで、やはりエド・サリバン・ショーからの映像でジャクソン5が流れました。奇しくも同じ12歳の折のリトル・スティーヴィーとマイケル・ジャクソン。同じようなバブルガムっぽい印象を受けましたが、その間の10年近い隔たりはそれだけの変化を経ていたのでした。逆に言えば、ジャクソン5はゴーディの管理バブルガム路線の最後の踏襲者だったのかもしれません。しかしそのジャクソン5も、70年代半ばにはディスコやフィラデルフィア・ソウルからの影響がより濃くなります。
そんなスティーヴィーとジャクソン5が出会ったのが、74年スティーヴィーのFulfillingness First Finaleという、やはり美しく攻撃的なアルバムの中の”You Haven’t Done Nothing”「悪夢」という曲。シングルとしても全米1位になっています。ジャクソン5はバックコーラスに招かれてdoo wopと繰り返すだけですが、これもスティーヴィーの当時の社会性を顕にした、ウォーターゲート事件を批判した曲。ニクソン大統領を、御託並べるだけで何もやってないじゃないか、と当時の雰囲気を代弁したような曲。とがっていた頃のスティーヴィーには、この「悪夢」をはじめ、「迷信」「回想」「疑惑」といった、漢字二文字の邦題がよく似合っていました。
そうそう、それから、リクエストコーナーでCars “You Might Think”が流れました。初期のMTVビデオアワードに輝いただけあって何度観ても楽しく斬新なクリップですが、時間がなかったのか、Rick Ocasekが蝿になって女の子に近付いていく部分まで流れなくて残念でした。
克也さんは触れられませんでしたが、その筋ではこのカーズの再結成、相当話題になっています。といっても、”Drive”などでリードヴォーカルをとっていたBenjamin Orrは2000年に他界、リーダーだったリック・オキャシックも参加は見合わせたという。オリジナルメンバーで残っているのはギターのElliot Easton、キーボードのGreg Hawkesのみ。
それで誰がフロントマンになったかというと、なんとあのトッド・ラングレン!!!
そして彼のプロデュースしたバンド、ユートピアからベースのKasim Sultonを連れてきて、ドラムは元TUBESのPrairie Princeという布陣だという。
現在、ブロンディとのダブルヘッドライナーでアメリカをツアー中。
バンド名もThe Carsではなく The New Cars。トッド・ラングレンはカーズのヒット曲をどれだけ歌っているのか?彼自身の曲はどういう扱いを受けているのか?それ以上に、どういう音になっているのか?
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コメント
はじめまして。
TBありがとうございました。
とても感激しております。
ところで、この記事の5月から随分たちましたが、
トッド・ラングレンのニュー・カーズはどんな感じだったのでしょうか?勉強不足のため、そのことも今回はじめて知りました。
興味津々です。
投稿: 波野井露楠 | 2006年8月28日 (月) 18時22分
波野井さま(苗字はこれでいいのかな?センスあるハンドルで笑ってしまいました)、トラックバック、コメントありがとうございます。まい・ふぇいばりっと・あるばむさんのところから飛ばせて頂きました。此方こそいきなり繋いでしまってすみません。
ニュー・カーズですが、まだ本物を見たり聞いたりはできていないんですけれど、演奏曲目を見たのですが、カーズの曲がほとんどで、トッドの曲として I Saw the Lightのみをやったようでした。
それから波野井さまの記事で、びっくりしたんですけど。
高島忠夫さん、まだ生きていらっしゃいますよー
投稿: Prof.Harry | 2006年8月29日 (火) 04時27分
こんにちは。
はい。苗字は波野井です(^^;)。
エドガー・アラン・ポーをもじって江戸川乱歩としたような、そんなイメージで考えました(^^;)。
ニュー・カーズは、トッドの曲は1曲なんですか。
でも、やっぱりすごいプロジェクトですよね(^^)。
貴重な情報ありがとうございました!
あ、それから、私はなにか勘違いしていたのでしょうか??
いやあ。お恥ずかしい&申し訳ない気持ちでいっぱいです(^^;)。
急いで訂正しなくては!!
こちらの指摘もありがとうございました(^^;)!!
投稿: 波野井露楠 | 2006年8月29日 (火) 09時39分
TBありがとうございます。波野井さんの記事でリトル スティービー・ワンダーを知ったわけで 勉強になります。ジャクソン5がバブルガム路線を踏襲とは 現在のマイケルの姿がそれを証明してるようにかんじますね。
投稿: まり | 2007年3月 7日 (水) 22時04分
まりさんコメントありがとうございます。ここに書いたモータウンの人間模様はもろ「ドリームガールズ」にあてはまってきますよね。映画のレビューは本スレに書きましたのでぜひ
投稿: Prof.Harry | 2007年3月21日 (水) 15時51分