Better Be Good to Me
今年の2月に引退を発表したCBS放送のマイク・ウォーレス記者。
88歳でした。テレビの創世記から今までずっと第一線で活躍してきた。
日本では赤坂局系列の「CBSドキュメント」として知られている、情報エンターテイメント番組としては草分け的な長寿番組「60ミニッツ」で有名。
数々の権力者やセレブ相手に歯に衣着せぬ、時には横柄にも見えるズバッと相手の言いたくないことを聞き出すインタビューで知られていました。
ショービジネス関連では、バーブラ・ストライサンドとのインタでけんかして長い間冷戦状態だったことが有名でした。
その少し前に引退を余儀なくされた、CBSのもう一人の看板、ダン・ラザーが、ブッシュ大統領の経歴に関する虚偽報道の責任を取らされた形で不本意だったのに対し、まさに仕事をやり終えての勇退といった感じでした。映画「インサイダー」の題材になった事件のように、タバコ業界と戦って訴訟も起こされたり、もちろん彼のジャーナリスト人生は波乱万丈でした。息子に若くして先立たれ、仕事でうつ病にもなり、自殺未遂もあった。
そんな彼が初めてロックコンサートを観たのが10年前の78歳のとき、ブダペストでのティナ・ターナーのライヴでした。これも「60ミニッツ」の取材で。
ウォーレスはジャニス・ジョプリンにインタビューしたことはあったのですが見たことはなかったそうです。
ティナはウォーレスに会うなり、お得意のきつい質問はしないでね、ということで、”You better be good to me!”お手柔らかに、といいました。これは彼女の傑作「プライベート・ダンサー」からの「愛の魔力What’s Love Got to Do with it”」に続くヒット曲のタイトルだったのですが、もちろんウォーレスはそんなことなどわかりません。
「プライベート・ダンサー」もロンドン録音でしたが、その当時からティナはヨーロッパに拠点を移しており、南フランスで豪華に生活していました。アメリカでレコードが売れなくなってもヨーロッパ諸国ではツアーは毎回大成功でした。
90年代前半に自叙伝 I Tinaを執筆して、それが元になって、アンジェラ・バセット、ローレンス・フィッシュバーン主演で映画「ティナ」も製作され、自分の人生に一区切りが付いた後だったのでしょう。
テネシー州ナットブッシュの貧しい家の娘に生まれましたが、電話がなかったため隣の家と大声で話す癖がついて、声が大きくなって歌がうまくなったという。
クラブ廻りをしていたアイク・ターナーに見出され、バンドにヴォーカリストで参加、やがて結婚。アイク&ティナ・ターナーを結成。
しかしこれはロック史上、最も悲惨な結婚だった。アイクは暴君で、産後で体力が落ちて安静を言い渡されていたティナに平気で病院を抜け出させてツアーに参加させたり。
アイク&ティナもだんだんティナのほうが人気が出てきて、フィル・スペクターがアイク抜きでティナだけのプロデュースを申し出て、そのRiver Deep Mountain Highがヨーロッパで大ヒットすると、アイクはますます嫉妬深くなる。
女癖も悪く、麻薬もやる。レコードが売れなかったり曲作りに行き詰ると、ティナを激しく殴打した。
最初はやられっぱなしで泣いていた彼女も、仏教に出会って、自分の心の強さに目覚め、はっきりと反抗するようになった。日蓮宗系の、日本では政党も持っていて影響力のある、あの宗派です。アメリカでは80年代は広告塔的存在だった。
76年に離婚。財産を一切放棄する代わりに、ティナ・ターナーという名前を使う権利だけを主張して認められた。
その後不遇の時期は続くが、その84年のプライベート・ダンサーで大成功、グラミー4部門獲得。ブルースから離れて、ロック・ディーヴァになった。でもそのとき既に44歳。
そんな彼女の半生でしたが、映画はいまだに見たことがないとのこと。アイクの暴力は思い出したくないほどひどかったのでしょう。映画も自叙伝も、自分を救ってくれた仏教の宣伝のために作った。
映画の流れを見ていてもよくわかるのですが、ティナがその時々で歌っていた曲の内容は、その時点での彼女の状態に不思議にシンクロしていました。
アイクとの新婚のときは、It’s Gonna Work Out Fine、二人はきっとうまく行くわよ、という、アイクとの掛け合いのラブラブ状態の曲が合った。
アイクの暴力がひどくなっていた70年代前半、15日のタイムマシーンでかかった「プラウド・メアリー」。 working for the man every night and day、関係は崩れてもお義理で男のために昼夜徹して働いていた。
84年、吹っ切れて再スタートを切った彼女には、What’s Love Got to Do with it? あの男に引かれたのは愛なんて関係なかった。これからは自分の道を歩んでいく、と。
そんな、やっぱり波乱万丈だった彼女、ウォーレス記者より早く、2000年のツアーを最後にセミリタイア、南フランスの豪邸で優雅な余生(?)を楽しんでいるようです。
15日、アイクとティナの離婚が成立した日。
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コメント
TBありがとうございました。
相変わらず読み応えのある記事ですね。
いつもティナを見るたびにこんなパワフルな人がDVを受けてたの!?と思います。
それくらい迫力ありますよね。
ところで「ベスト・ヒット・USA」を観る度にこのブログを思い出します。(笑)
投稿: OZZY | 2006年12月15日 (金) 11時39分
OZZY様、コメント、トラックバックありがとうございます。
彼女はステージでは迫力ありますけれど、体格には決して恵まれていなくて、むしろ小柄なほうなんですよね。その60ミニッツのインタビューでも、60超えたら一昔前ならお婆ちゃんなのに、かわいらしさ、お茶目ささえあった。マイク・ウォーレスも「あなた17歳じゃないですか?」なんて言っていました。そういう側面もあるんですね。
小林克也さんはこの春まで、僕の住んでいるところでもラジオ番組を持っていて、それのレビュー係みたいな感じでこれが始まったんですけれど、番組が終わっちゃって、後残された接点はベストヒットだけになっちゃって、それでそのレビューがどうしても多くなっちゃうんです。思い出していただけて光栄のきわみです。いつまで息が続くか分かりませんが、克也御大にも見捨てられたくないので、がんばりたいと思ってます!
投稿: Prof.Harry | 2006年12月15日 (金) 18時53分
TBありがとうございます。
この方はとにかくパワフルで強い女性という印象が強かったですけど、これほどのDVを受けていたのには驚いてしまいました。
やはり女性ならではの繊細な部分もしっかり持っていたんでしょうね。
私のところではベストヒットUSAが残念ながら見られないので小林克也さんの声を聞く機会といえば「SMASTATION」ぐらいなんですよ。おかげでこの番組だけは毎週のように見ております。
投稿: ろ妃江 | 2006年12月16日 (土) 09時49分
TBありがとうございます。またまたアイク&ティナが聴きたくなりました。今はジミヘンにハマってまして そろそろクリスマス関係アルバムの記事も書こうかとおもってます。アイクは暴力亭主ということで女性としては好きになれないのですが、ダンナは才能があると大ファンらしいです。
投稿: まり | 2006年12月16日 (土) 15時45分
ろ妃江さん、コメントありがとうございます。
女性として共感できる部分、いっぱいあるんじゃないですか。
ベストヒット、BSデジタルですから全国で見られるんですけど、装置がないということなのでしょうね。マンションとか、対応のテレビさえ買えば見あられるようになっているところがどんどん増えているみたいだし、一戸建てでも少しの出費で何とかなるかも。この番組を見るためだけにBSやってるって人もいます。
スマステは、克也さんは以前はよくスタジオ裏にいてナマで声をやっていましたけど、最近は前録で声を貸すだけが多くなってしまって残念です。今晩も寝過ごしてしまった。
投稿: Prof.Harry | 2006年12月17日 (日) 02時35分
まりさん、コメントありがとうございます。
そう、私生活はどうあれ、アイク・ターナーは評価は高いんですよね。
アイク・ターナー&アイケッツ、数年毎に来日してライヴハウス周りをやっています。
投稿: Prof.Harry | 2006年12月17日 (日) 02時39分