Slowhand
といえばいわずと知れた、泣く子も黙るギターの神様のあの人の冠名。彼の77年のアルバムのタイトルでもある。
ここの四つ目のボタンの記念すべき最初の記事でもこのタイトルでこの人の話題にちょっとかすっています。彼は速弾きでも手の動きはゆっくり見える。
反論するわけではありませんが。このあだ名の由来には諸説あるということで。もともと、英語の業界用語では、観客がアンコールでアーティストの再登場を求めて、拍手がそろって、それがだんだんゆっくりになっていく。それをslow handclapという。
彼の場合、ヤードバーズの時代に、使っていたギターが改造ものであまりいいものではなくて、ライヴの最中でも、一回の中でも数度、弦を切ってしまうことが恒例になっていた。彼はそのたびごとにステージの裏に引っ込んで数分かけて弦を張り替えてチューニングをやり直した。その間観客は、彼の再登場、ライヴの再開を、アンコールのように、ゆっくり拍手を揃えて待ちわびていた。そこから、彼のそのあだ名がついたという。
昔の11pmの中で、今野雄二さんがやったインタビューの中で彼自身もそういっていましたし、ヤードバーズで一緒だったクリス・ドレイヤもそう証言しています。こっちが本当でしょう。
でも、ポインターシスターズが放ったヒット曲、クラプトンとは全く関係ない「スローハンド」は、「スロー&セクシー、あの時の手の動きがゆっくりの優しい男が好き」といった曲だったし、その意味もあるのでしょう。
さて。ここ一ヶ月は彼の話題で持ちきりでしょう。ずっと日本に居座り、全18回にもおよぶライヴの列島縦断ツアーを敢行中。
私も先週の名古屋公演に行ってきましたのでレポート申し上げます。
いうまでもなく彼は長い年月にわたって活躍し続け、ヒット曲もいっぱいある。それぞれの年代で特色ある活動をしてきた人。どの時代の彼が好きか、は人によって異なってくる。
ピーター・バラカン氏は、渋いヴォーカリストとして開眼した90年代の彼が素晴しいと言っていた。
克也さんは、J.J.ケールの曲なんかをやっていたソロの初期、70年代の彼が好きだと言ってました。
今回のライヴは、克也さんが好きなクラプトンを好きな人にはたまらない構成になっているかもしれません。
彼くらいのアーティストになれば、そのときの目的に応じていろいろな構成が可能になってくる。ファンサービスのためにひたすらヒット曲を並べる、新しいアルバムの宣伝のために新しい曲を中心に演る、あるいはそのときの気分で、ある特定のテーマや主張に沿った曲を集めてみる。今回は明らかに最後のパターンだったようです。
会場が暗くなってから彼が登場するまで少し間があり、その「スローハンド現象」が起こっていました。知っている人は案外多いのかな。
最初の曲に面食らった。馴染みのない曲。思い出すのに時間がかかった。なんとTell the Truthというデレク&ドミノスの「レイラ」のアルバムからの曲だった。これ以降もデレク&ドミノスの曲が多く、70年代のレパートリーからの選曲が中心になっていた。
演奏曲目は以下のとおりです。最初の録音も付記しておきました。多分これで間違いないと思いますが誤りがあればご教示ください。
01. Tell the Truth (Layla and Other Assorted Love Songs, Derek & the Dominoes, 1970)
02. Got to Get Better in a Little While (In Concert, Derek & the Dominoes, 1973)
03. Old Love (Journeyman, 1989)
04. Anyday (Layla and Other Assorted Love Songs)
05. Motherless Children (461 Ocean Boulevard, 1974)
06. Driftin' Blues (E.C. Was Here, 1975)
07. Key to the Highway (Layla and Other Assorted Love Songs)
08. Outside Woman Blues (Desreali Gear, Cream, 1967)
09. Nobody Knows You When You're Down and Out (Layla and Other Assorted Love Songs)
10. Running on Faith (Journayman)
11. After Midnight (Eric Clapton, 1970)
12. Little Queen of Spades (Me & Mr Johnson, 2004)
13. Pretending (Journayman)
14. Wonderful Tonight (Slowhand, 1977)
15. Layla (Layla and Other Assorted Love Songs)
16. Cocaine (Slowhand、この2曲はメドレーで)
(アンコール)
17. Crossroads (Wheels of Fire, Cream, 1968)
このように「レイラ」のアルバムから5曲、他デレク&ドミノス時代が1曲、「ジャーニーマン」から3曲、「スローハンド」から2曲、他70年代の曲が3曲、クリーム時代の曲が2曲、一番最近の録音としては Me& Mr. Johnsonから1曲。
大阪では I Shot the Sheriffも演ったそうです。しかしこれは、「ワンダフル・トゥナイト」同様、日本のファン向けのサービス目的の選曲であって、今回の大きなテーマとは直接関係ないでしょう。
今回の彼は、彼のルーツであるブルース色を前面に出したかったのでしょう。
お馴染みの80年代、90年代の大ヒット曲はほとんどない。その時代からは、やはり一番ブルース色の強かった「ジャーニーマン」からの選曲が多かった。
クリーム時代の曲も、「ホワイト・ルーム」でも「サンシャイン・オヴ・ユア・ラヴ」でも、なく、ブルースの曲から。アンコールの「クロスロード」も、彼のボックスセットや彼が主催したギタリスト・フェスティヴァルのライヴDVDのタイトルになっていたりするが、実はオリジナルはブルースのロバート・ジョンソン。クラプトンが10代のときに聴いて人生が変わったという、今なお敬愛してやまないミュージシャン。04年に念願だった彼へのトリビュート・アルバムを発表しており、そこか
らも1曲。
70年代からのお馴染みの曲は、ソロ第一弾シングルの「アフター・ミッドナイト」と、「レイラ」とのメドレーで演奏された「コカイン」。これは両方とも、そのJ.J.ケールの作品。やはり敬愛してやまない人物。クラプトンの発表されたばかりの最新CD、 Road to Escondidoは、そのケールとの完全なデュエットアルバムになっています。
曲の間には彼は、メンバー紹介を除いては「コンバンハ!」とThank Youしかいいませんでした。MC、曲紹介一切なし。ぶっきらぼうな感じもしましたが、それも演出の一つなのかもしれません。
そのかわり、ライヴの時間じゅうずっと、時に激しく、時に絡みつくようなギターが流れます。ヴォーカリストとしてより、ブルース・ロック・ギタリストとしてのクラプトンの凄さを改めて認識できるライヴでした。
今週は東京公演の真っ只中ですか。12月半ばまでツアーは続きます。ネタバレなんて思わないで。雰囲気や大体の流れは変わらないと思いますが、場所や日によって選曲や曲順を微妙に変えているようです。数回行かれる方もいらっしゃるでしょう。じっくりスローハンドを堪能してきてください。
| 固定リンク
「音楽」カテゴリの記事
- Take It Easy~All I Wanna do(2010.09.23)
- Hang’em High(2010.03.03)
- Wake Up Everybody!(2010.02.07)
- Try to Remember/ The Way We Were(2010.01.15)
- GET READY!(2009.12.16)
「コンサート・ライヴ」カテゴリの記事
- Take It Easy~All I Wanna do(2010.09.23)
- Hang’em High(2010.03.03)
- GET READY!(2009.12.16)
- Listen to the Music!(2009.11.20)
- Old Friends(2009.08.02)
「エリック・クラプトン」カテゴリの記事
- Listen to the Music!(2009.11.20)
- Summer of' 78(2007.01.25)
- CRY(2006.12.01)
- Slowhand(2006.11.24)
- Bo Diddley is Jesus(2006.10.27)
「60年代」カテゴリの記事
- Hang’em High(2010.03.03)
- GET READY!(2009.12.16)
- Old Friends(2009.08.02)
- Soul Man(2008.09.22)
- Nobody Wins(2008.01.25)
「70年代」カテゴリの記事
- Take It Easy~All I Wanna do(2010.09.23)
- Hang’em High(2010.03.03)
- Wake Up Everybody!(2010.02.07)
- Try to Remember/ The Way We Were(2010.01.15)
- GET READY!(2009.12.16)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
こんにちはー。
スローハンドの名の由来、いろいろ説があるんですね。拍手の話は知りませんでした。あと、セクシーなスローハンドも・・。いえ、言葉としてという意味ですが(笑)。
投稿: muse | 2007年1月28日 (日) 11時22分
museさん、コメント、トラックバックありがとうございます。
slowhandの由来、克也御大を含めてほとんどの人が、ギターのはや弾きがゆっくり見えることだと思っているみたいなんですけど、この拍手説が本当のところらしいんです。はや弾きがゆっくり見えるのを英語で考えるなら slow fingersになりそうですからね。
投稿: Prof.Harry | 2007年1月29日 (月) 05時51分
オヒサです。大阪公演は 『サンフランシスコ湾ブルース』も演ってくれて しぶいな~~と思いました。クラプトン伝説は謎とき面白いですが 神秘のベールもつつまれていて欲しいのも事実。私が好きになった頃はクリームは解散していて 彼らのことが すっごく知りたかったんですよ。ダンナがデレク&ドミノスを聞かせてくれたときは まさか クリームのECがメンバーとは 長い間きがつきませんでした。クリーム=ドミノス ぜんぜん音が違いますもんね~~
投稿: まり | 2007年2月19日 (月) 17時52分
まりさんこちらこそおひさ。コメントありがとうございます。クリームとドミノス、全然違うんですけど、70年代でも後半はまた違う。そういうところが、記事にも書きましたけど、どの時代のクラプトンがすきかで立場が分かれるということなんでしょうね。そして彼自身もどの部分を演出するか、自分で楽しんでいるんじゃないでしょうか。今回の公演をみてそんな気がしました。またおじゃましますね
投稿: Prof.Harry | 2007年2月21日 (水) 21時04分