I Need to Wake Up
「不都合な真実」An Inconvenient Truth。
主演、というか実際にはたった一人の出演者はアル・ゴア、前アメリカ副大統領です。
いつも音楽の話題を中心に書かせてもらっていますので、ゴアと音楽がどう結びつくか考えてみますと。
ヘレン・レディの73年のナンバー1ヒット “I Am Woman”「私は女」という曲があります。
当時のウーマンリブ運動のテーマ曲みたいな扱いをされました。
歌いだしは
I am woman, hear me roar 私は女、私の雄叫びを聞きなさい
The number’s too big to ignore 私たちは無視できないくらい数も多いのよ
です。
ゴアが副大統領になったクリントン政権の発足後一年くらい、これの替え歌が流行ったんです。
I am Hillary, hear me roar 私はヒラリー、私の雄叫びを聞きなさい
I have more power than Al Gore 私はアル・ゴアより権力があるのよ
大統領夫人時代からホワイトハウス内で多大なる影響力を誇っていたヒラリー・クリントンの鼻っ柱の強さは副大統領の存在を凌駕していた、と。ウーマンリブ賛歌の元歌のイメージともぴったりだったわけですね。roar, ignore, Goreと韻を踏んでいることにも注目ください。
それでなくても、副大統領とは元来、バカにされやすい存在だったんです。
選挙で選ばれるナンバー2.大統領が不在、職務履行不能状態の場合は全権を代行するし、命を落とした場合は正式に昇格して後継者となる。
ところが、その大統領がちゃんと仕事をしている時は、大統領との存在感の差がありすぎる。仕事の規定がほとんどなく、何をしていいのかわからない。
そこで大統領の名代として国内外を遊説して回ったり、来賓の接待をしたり・・・
「昔々、ある村に二人兄弟がいました。
一人は船乗りになりました。
ある日、彼が大海原に出るために村を出て行ったら
その後、その村で彼の名を聞くことは二度とありませんでした。
もう一人は合衆国副大統領に選ばれました。
ある日、彼が就任のためワシントンDCへ行くために村を出て行ったら
その後、その村で彼の名を聞くことはやはり二度とありませんでした」
その筋で伝わる笑い話ですが、つまり副大統領になるということは船乗りになって行方不明になってしまうのに等しい、それくらい影が薄い、と。
副大統領が前大統領の引退を受けて大統領選挙に立候補しても当選できないというジンクスが150年も続いていました。それを破ったのはレーガンの副大統領だった親父のジョージ・ブッシュでした。
その親父ブッシュが選んだ副大統領はダン・クエールという人物で、40代だった政治家としての若さこれあり、ポテトの綴りを間違えたり、ゴルフばっかりやっていたり、やっぱりバカにされ勝ちだった人でした。
「ウォーリーをさがせ」という絵本が流行りましたが。小さくいっぱい人が描いてある漫画の中で、あなたは何秒でウォーリー君を探し当てられるか。
このクエールが副大統領だった時はこれをパロった「クエールを探せ」という絵本もあったんです。ホワイトハウス、議事堂、共和党大会会場、大勢の人がいる中で「クエール自身、自分がどこにいて何をしているかわかっていないに違いない、早く君が見つけ出してあげよう…」
選挙に落ちて退任した後来日した折、私はクエール氏の世話役兼通訳をやった思い出があります。まあ、いい人でしたが。
他にも話はいっぱいありまして、とにかくそれだけ嘲られる存在だったのですが。
この主人公ゴアと、今の現職チェイニーが、この副大統領にまつわる閑職のイメージを大きく変えています。
今のチェイニー、先週来日していましたが。名前はやたら知られているけれど政治家として経験が浅い二世大統領に、親父が大統領の時には国防長官までやった海千山千の政治屋が組まされれば、自然と政権の中枢を担っていく。
そして前副大統領のゴアは、政策オタク policy wonkと渾名されるほど、その筋専門の学者と討論しても細部の知識で勝ってしまうほどの政策通だった。特に、環境問題、対ロシア政策、情報通信関係が得意中の得意分野だった。
特に、環境問題は副大統領になる以前から彼のライフワークになっていた。
60年代から、世界環境の悪化に警告を発している学者たちの議論に傾倒し、70年代に連邦議員となり政治家の課題として取り組むことになった。
89年、当時6歳だった息子が交通事故にあい生死の境をさまよった。幸いにして命は取り留めたが、この経験で、自分の次の世代にちゃんと生きられる世界を残さなければならないとの使命感を新たにしたという。
副大統領時代には、国際的なCO2 排出削減計画「京都議定書」の作成にも尽力した。
8年間の副大統領としての活躍の後、2000年の大統領選挙に前任者を継承するべく立候補。史上まれに見る接戦の末、全米での一般投票集計では、その父親のせいで名前は知られていた二世の対立候補を上回っていたものの、州ごとの割り当て数の合計獲得数で最終決定をする制度のために逆転敗北を喫してしまう。
ゴアにとって、やはりこれは痛手だった。
それから立ち直るべく、彼はもともとのライフワークであった、地球の危機を訴え続ける活動に専念しようと決心する。
彼は精力的に全米各地を回って小規模なスライドショー講演会を開き、地球温暖化の現実、恐ろしさを聴衆に直接訴えかけ続けた。
映画も、彼のスライドプレゼンの再現で構成されています。
自動車などの排気ガスや石炭燃焼、森林伐採のためCO2が増える。これがCO2の持つ温熱効果を増やしてしまい、地球全体の温度が上がっていく。
2005年の夏は、観測史上最も暑かった。熱波による死者も多く出た。
カトリーナその他の巨大ハリケーンも、海面温度上昇の賜物だった。
2020年には、キリマンジャロの山頂から雪が消えてしまうかもしれない。
南極の氷もどんどん溶け出し、海面を上昇させている。
ニュー・ヨーク、東京などの海沿いの大都市が海底に沈み、数億人が難民と化するかもしれない。
洪水、山火事などの異常気象、疫病が蔓延し、生態系も崩される。絶滅する生物も増えている。
これらの事実が淡々と語られます。2000年選挙の折、対立候補、つまり今の大統領から、説教くさい、理屈っぽい、退屈な男、と攻撃されましたが、少なくとも私には迫力あって説得力あるプレゼンに見えました。
その選挙の後、アメリカと世界は大きく変わったわけで。
もしこの人が大統領だったらまた別の世界があったのではないか、との悔恨もよく聞かれます。
地球温暖化のために氷河期が早くやってくる設定の「デイ・アフター・トゥモロー」という映画の大統領役、どうもゴアのそっくりサンに見えて仕方がありません。
地球がおかしくなり、我々が暮らしにくくなる「不都合な真実」が提示され、このままだと本当にやばい、でも必ず壊滅の運命にあるわけではない。一人ひとりができることをやれば、最悪の事態はまだ未然に防げる。そのことを多くの人たちに知ってもらうために、自分の活動を映画にすることに同意したそうです。
だからその「できること」は、映画館かDVDでぜひ確認してください。
今週初めのアカデミー賞で、最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞しました。
もう一つ、最優秀テーマ曲にも選ばれました。
エンディングで流れるそのテーマ曲は、メリサ・エスレッジの “I Need to Wake Up”。彼女らしいアコースティックな曲で、現実に目覚めて行動を起こさなければ、と訴えます。
彼女も乳癌を患いかなりのブランクがあっての復活がありました。この受賞は彼女にとっても、新しい目覚めとなるでしょう。
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コメント
TBありがとうございました。
小林克也さんのHPに参加してらっしゃるなんてすごいですね!
私は80年代からベストヒットUSA見ていて、小林さんのファンです。これからも楽しみにブログ読ませていただきます!
投稿: ぴむ | 2007年6月12日 (火) 21時33分
ぴむさんはじめまして。コメントありがとうございました。勝手に繋いですみません。
映画のレビューは時々やりますけれど、映画を中心に扱っているブログやサイトをやっている方々は、層が厚く、皆さんそれぞれ詳しいし、こだわりを持っているので、感心します。僕も映画好きなんですけど、かなわないので、こういう変化球になってしまいます。
克也さんのサイトに2,3ヶ月残されて、期限切れになった後にここにアップするので、時期はだいぶずれてしまいますが、よろしければこれからも宜しくです。
投稿: Prof.Harry | 2007年6月13日 (水) 17時11分
トラックバックありがとうございました。
本作の中で一番印象的だったのは「環境対策は経済に悪影響は及ぼさない」という意味の部分です。環境問題に対して経済効果をネタにして斜に構えた態度を取る知識人もいるようですが、この映画を観て出直せと言いたいですね(笑)。
それでは、今後とも宜しくお願いします(^^)。
投稿: 元・副会長 | 2007年6月13日 (水) 20時33分
TBありがとうございます。
副大統領って、アカデミー賞にノミネートはされたけど賞は逃した俳優みたいな存在なんですかね。誰も覚えていない・・・。でも、この映画は晴れてアカデミー賞ゲット、ブッシュも方針転換、あとはCO2どれだけ減るか。チームマイナス6%じゃ足りないみたいですが。
投稿: ジョー | 2007年6月13日 (水) 22時34分
元・副会長様、コメントありがとうございます。
経済の問題は、結果が出てくるのは後で予測試算しかないわけで、何が正しいのか判断するのは難しいですが、お互いが自分の主張に有利な試算方法でものをいっていることは確かでしょう。僕も目先の雇用問題とかよりも、長期的に地球のことを考えるほうが先決だと思うのですが。アカデミー賞を取った前後に、ゴアは大邸宅に住んでいて、エネルギーと土地を浪費している、こういう映画を作っておきながら、偽善者だ、という噂が流れたという話は御存知だと思います。あれも、アメリカという国には、政治家に雇われて、自分の主張とは関係なく情報操作や噂のデッチ上げをするプロがいますので、そういう人たちの仕業だと僕は踏んでいます。
投稿: Prof.Harry | 2007年6月15日 (金) 01時31分
ジョー様、コメントありがとうございます。
副大統領、とにかくゴアの前は影が薄かった。たとえると何でしょうかねえ。逆転サヨナラホームランを打った選手の直前に送りバントを決めたバッター、いやこれも違うかな?
でもやはり、この映画のためでしょう。アメリカの有権者全体での人気は別にして、今、民主党上層部で一番大統領に出馬して欲しい人は、このゴアなんだそうです。主張や能力が見直されているし、やはりまだ女性や黒人を党の顔を任せるのは勇気が要るのでしょう。ただゴア本人は、映画でもあったように、2000年のショックがまだ尾を引いていて、気乗りがしていないようです。
投稿: Prof.Harry | 2007年6月15日 (金) 01時37分